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浦和地方裁判所 平成5年(わ)930号 判決 1994年1月17日

本店の所在地

埼玉県桶川市大字倉田二三三六番地

代表者の住居

同県大宮市大成町一丁目六二番地

代表者の氏名

下川原勇二

有限会社大建工業

本店の所在地

埼玉県大宮市三橋二丁目七六五番地

代表者の住居

同市大成町一丁目六二番地

代表者の氏名

下川原勇二

株式会社大建工業

本籍

埼玉県蕨市錦町五丁目二六一〇番地

住居

同県大宮市大成町一丁目六二番地

会社役員

下川原勇二

昭和一七年一月一〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官原秀樹及び弁護人河本仁之各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社大建工業を罰金一五〇〇万円に、被告人株式会社大建工業を罰金四五〇〇万円に、被告人下川原勇二を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人下川原勇二に対し、この裁判が確定した日から五年間、右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人有限会社大建工業(以下「被告有限会社」という。)は、昭和五〇年二月六日、本店を埼玉県大宮市三橋三丁目七六五番地(平成元年八月三日、同県桶川市大字倉田二三三六番地に移転)に置き、資本金二〇〇〇万円で設立され、土木工事請負業等を営んでいた会社であり、被告人下川原は、その代表取締役として同社の業務全般を統括していた者であるが、被告人下川原は、被告有限会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、平成元年九月三〇日、埼玉県大宮市土手町三丁目一八四番地所在の所轄の大宮税務署において、同税務署長に対し、同社が昭和六三年八月一日から平成元年七月三一日までの事業年度に納付すべき法人税について、所得の申告を偽り、雑収入の一部を除外し、外注費を架空計上するなどの方法により所得を隠し、同社の同事業年度における実際の所得が一億五八八一万四九九五円であったのに、これが九八二万七四九八円で、これに対する法人税が二七九万一五〇〇円である旨の偽りの確定申告書を提出してその納付期限を過ごし、もって、不正の方法により、同社の右事業年度における正規の法人税額の六五三六万六一〇〇円と右申告税額との差額の六二五七万四六〇〇円の法人税を免れた。

第二  被告人株式会社大建工業(以下「被告株式会社」という。)は、平成元年八月一日、本店を埼玉県桶川市大字倉田二三三六番地(同年同月三日、同県大宮市三橋三丁目七六五番地に移転)に置き、資本金二〇〇〇万円で設立され、被告有限会社の営業を引継ぎ、土木工事請負業等を営んでいた会社であり、被告人下川原は、その代表取締役として同社の業務全般を統括していた者であるが、被告人下川原は、被告株式会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

一  平成二年一〇月一日、前記大宮税務署において、同税務署長に対し、同社が平成元年八月一日から平成二年七月三一日までの事業年度に納付すべき法人税について、所得の申告を偽り、前記第一と同じ方法により所得を隠し、同社の同事業年度における実際の所得が三億二三五九万九八七三円であったのに、これが一九九四万四一六二円で、これに対する法人税が七〇九万五一〇〇円である旨の偽りの確定申告書を提出してその納付期限を過ごし、もって、不正の方法により、同社の右事業年度における正規の法人税額の一億二八五五万七一〇〇円と右申告税額との差額の一億二一四六万二〇〇〇円の法人税を免れ、

二  平成三年九月二七日、前記大宮税務署において、同税務署長に対し、同社が平成二年八月一日から平成三年七月三一日までの事業年度に納付すべき法人税について、所得の申告を偽り、前記と同じ方法により所得を隠し、同社の同事業年度における実際の所得が一億八〇二〇万一二六二円であったのに、これが一八三六万八六〇〇円で、これに対する法人税が六一二万八〇〇〇円である旨の偽りの確定申告書を提出してその納付期限を過ごし、もって、不正の方法により、同社の右事業年度における正規の法人税額の六六八一万五三〇〇円と右申告税額との差額の六〇六八万七三〇〇円の法人税を免れた。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書三通

一  被告人の大蔵事務官に対する平成四年二月一八日付、一九日付、二五日付(一五丁のもの)、三月二六日付、三〇日付、四月一四日付、六月四日付(一五丁のもの)、八日付、一九日付(一五丁のもの)、七月三〇日付、八月一九日付、一〇月一五日付、二三日付、一一月一一日付(一四丁のもの)、一二月二五日付(添付書類を除き八丁のもの)及び平成五年一月二五日付各供述調書

一  下川原悦子(三通)及び野口茂の検察官に対する各供述調書

一  田口正司、内藤重徳(二通)及び野口茂(七通)の大蔵事務官に対する各供述調書

一  下川原勇二(二通)、下川原勇二ほか一名(五通)、後藤美紀子、桜井康善、小船徳次郎ほか一名及び大里正治作成の各答申書

一  検察事務官作成の電話聴取書

一  大蔵事務官作成の平成五年二月一〇日付査察官報告書

判示第一の事実につき

一  登記官作成の登記簿謄本二通(有限会社大建工業についてのもの)

一  上尾税務署長作成の回答書

一  大蔵事務官作成の修正貸借対照表(平成元年七月期分)調査書二三通(公判調書中の検察官請求証拠等関係カード甲の9ないし18番、34ないし、42番、49ないし52番)、修正損益計算書(有限会社大建工業の平成元年七月期分)、法人税査察更正決議書(同)及び脱税額計算書(同)

判示第二の事実につき

一  登記官作成の登記簿謄本二通(株式会社大建工業についてのもの)

一  大宮税務署長作成の回答書

一  大蔵事務官作成の調査書一六通(前記カード甲の21ないし32番、45ないし48番)

判示第二の一の事実につき

一  大蔵事務官作成の修正貸借対照表(株式会社大建工業の平成二年七月期分)、修正損益計算書(同)、法人税査察更正決議書(同)及び脱税額計算書(同)

判示第二の二の事実につき

一  判示第二の一に掲記と同一表題の各書面(株式会社大建工業の平成三年七月期分)

(法令の適用)

被告人下川原の判示各行為は各事業年度毎にいずれも法人税法一五九条一項に、被告有限会社及び被告株式会社については更に同法一六四条一項にそれぞれ該当するところ、被告有限会社及び被告株式会社については、情状に鑑み、同法一五九条二項を適用し、被告人下川原については、所定刑中、いずれも懲役刑を選択し、被告有限会社については、前記脱税金額の範囲内で同社を罰金一五〇〇万円に処し、被告人下川原の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告株式会社については、同法四八条二項により、前記脱税額を合算した範囲内で同社を罰金四五〇〇万円に処し、被告人下川原については、同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い第二の一の罪の右所定刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、被告人下川原については、同法二五条一項を適用して、この裁判が確定した日から五年間、その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

被告人下川原の本件各犯行は三年度にわたるものであり、その脱税額が多額であること、ほ税率が極めて高いこと、その目的が私的蓄財にあり、犯行に伴って多額の蓄財をして隠匿したこと、そのために日頃から、際限なく偽りの書類を作成して準備したこと、同被告人がかつて、各種の罪で五回処罰され、保護観察に付されたこともあったことなどを考えると、本件各犯行は、同被告人の規範意識に甚だ稀薄で身勝手な生活態度を示すものとして、これが税制を無視したに等しい程のものとして、なお、これに伴い、被告会社を私物化してその基盤を危うくしたものとして真に悪質で、被告人らの罪責は重大といわなければならない。

他方、本件各犯行については、被告人下川原は、幼少のころ、父親を亡くし、多子家庭で貧しく育ち、長じて事業を営むようになったものの、三人の女性との結婚と離婚を重ねて九人の子をもうけて、その生活費を必要とすることとなり、景気の波の激しい被告会社の業界の状況や自らの退職後の生活のことを考えるうち、その犯行を企てるに至った様子が窺われること、また、同被告人は、これまで勤勉に過ごしながらも、然るべき指導者に巡り合えずに過ごし、健全な社会常識の涵養に不足し、その故に周囲からの悪影響を受けてその犯行に及んだ様子も窺われること、しかるところ、本件により、被告会社は、一年余りの査察を受け、その後、修正申告を(被告有限会社については遡って昭和六三年度分についても)行い、多額の重加算税や延滞税を支払い、被告人下川原の蓄えた現金の大部分をこれに充てたうえ、なお、多額の借り入れも行うこととなったこと、そして、本件審理を受け、被告人下川原は、相当に反省を深めた様子が窺われ、今後は経理や納税申告を適正に行い、決して過ちを繰り返さない旨述べており、被告株式会社は、そのために税理士を監査役に就任させたこと、同社は、約一〇〇名の従業員を擁し、これまで表彰されるような工事を行った実績も有するものの、その経営が被告人下川原に依存した状況にあり、しかも、最近は工事量が減少している様子が窺われること、被告人下川原は、現在、未だ六人の未成年の子を有し、稼働を求められていること、その他、同被告人の年齢の程など斟酌すべき点も存する。

これらの事情を総合考慮した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩垂正起)

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